現代の消費行動は、モノを所有することから「体験」を重視する「コト消費」へと大きくシフトしています。本記事では、コト消費の定義やモノ消費との違い、広まった背景、Z世代に注目される「トキ消費」「イミ消費」まで具体的な事例とともにわかりやすく解説します。自社のマーケティング施策に活かしたい方はぜひ参考にしてください。
コト消費とは、商品(モノ)を所有することではなく、旅行・イベント・体験サービスなど「経験そのもの」に価値を見出し、お金を支払う消費行動を指します。消費者の関心が「何を買うか」から「何を体験するか」へとシフトした結果として生まれた概念で、現代の消費者ニーズを捉えたマーケティング戦略を立案するうえで欠かせないキーワードです。
コト消費が「経験」にお金をかける消費スタイルなのに対し、一方、モノ消費とは、家電・衣類・自動車などの有形商品を購入・所有することに価値を見出す消費行動です。
たとえば、同じ「食」の場面でも、スーパーで食材を買って自宅で調理するのはモノ消費的な行動です。一方、料理教室に参加して本格イタリアンを学んだり、シェフがテーブルで調理してくれる特別なレストラン体験にお金を払うのは、典型的なコト消費といえます。
比較項目 | モノ消費 | コト消費 |
|---|---|---|
消費の対象 | 有形の商品・製品 | 体験・サービス |
価値の軸 | 所有・機能・品質 | 感動・思い出・自己成長 |
満足感の源泉 | モノを手に入れること | 体験そのものや記憶 |
SNS親和性 | 比較的低い | 非常に高い(体験のシェア) |
リピート動機 | 機能向上・買い替え | 非日常感・コミュニティ |
モノ消費は「より良いものを持ちたい」という欲求が起点ですが、コト消費は「より豊かな時間を過ごしたい」「他者と共有できる記憶を作りたい」という欲求が起点になります。マーケターにとって重要なのは、この価値の軸の違いです。モノ消費では機能・スペック・価格が訴求の核になりますが、コト消費では体験の「希少性」「参加感」「物語性」が購買動機を左右します。
日本では高度経済成長期(1960〜1970年代)、家電・自動車・住宅など「モノを持つこと」が豊かさの象徴でした。しかし、物質的な充足が進むにつれ「所有の満足感」は次第に薄れていきます。

1990年代以降、消費者の関心は徐々に「体験」へとシフトし始め、スマートフォンとSNSの普及によってこの傾向はさらに加速。2010年代には「コト消費」という言葉が広く使われるようになりました。ミニマリズムの浸透やシェアリングエコノミーの台頭も、「所有しなくていい」という意識を後押ししています。
コト消費は「体験」の性質によっていくつかのタイプに分類できます。自社の事業にどのタイプが当てはまるかを整理する際の参考にしてください。
種類 | 概要 | 代表例 |
|---|---|---|
純粋体験型 | 体験そのものが目的 | 料理教室、乗馬体験 |
アトラクション施設型 | 施設に訪れて非日常的な体験を楽しむ | テーマパーク、脱出ゲーム |
時間滞在型 | 場所・空間でゆったりと時間を過ごすこと自体に価値がある | グランピング、おしゃれなカフェ |
ライフスタイル型 | 日常生活の質や自己成長につながる継続的な体験 | 語学学習、パーソナルトレーニング |
コミュニティ型 | 同じ趣味・価値観を持つ人々とのつながりに価値を見出す | ファンクラブ、オンラインサロン |
イベント型 | 期間限定・一度きりの特別な体験への参加 | 音楽フェス、季節イベント、限定コラボカフェ |
買い物ワクワク型 | 購買プロセス自体を楽しむ体験消費 | マルシェ、ポップアップストア |
この7タイプは排他的ではなく、複合することも多いです。たとえば星野リゾートは「時間滞在型」を核としながら「純粋体験型」のプログラムを組み合わせています。自社の強みがどのタイプと親和性が高いかを見極めることが、企画設計の起点になります。
コト消費が主流になった背景には、価値観の変化、テクノロジーの進化、そしてインバウンド需要の拡大という複数の要因が絡み合っています。
物質的な豊かさが一定水準に達した社会では、「モノを持つこと」そのものの満足感が薄れていきます。ハーバード大学のトーマス・ギロビッチ教授の研究では、人は物質的な購入よりも体験的な購入から長期的に高い幸福感を得ることが示されています。体験は時間が経つほど美化されてポジティブな記憶として定着する一方、モノは購入後すぐに「慣れ」が生じ、満足度が下がりやすいためです。
世代ごとに消費価値観は異なり、ミレニアル世代以降は特にこの傾向が顕著です。

実際の調査でも、Z世代は最も高額な支出として「旅行・レジャー」が上位を占め、「推し活関連の支出」も続く結果となっています。従来のモノ消費よりも体験や感情に紐づく消費が重視されている傾向が見られます。
〈参考〉PR Times

InstagramやTikTokなどのSNSは、コト消費を加速させた最大の要因のひとつです。「何を持っているか」よりも「何を体験したか」をシェアする文化が定着し、体験そのものが自己表現のコンテンツになりました。
マーケター視点で見ると、SNSの拡散は体験型コンテンツの集客コストを大きく下げる可能性を持っています。旅行先での絶景写真、ライブコンサートの興奮、人気レストランでの食体験など、「映える体験」はフォロワーへの共感を生み、参加者が自発的に投稿・シェアしてくれる「アーンドメディア(Earned Media)」として機能します。コト消費型の企画では、このSNS拡散を前提とした体験設計が集客効率を左右します。

訪日外国人観光客の需要シフトも、日本国内のコト消費市場を後押ししました。かつての「爆買い」から、忍者体験・着物散策・農村ステイなど日本の文化・自然を「体験する」消費へと移行したことで、国内企業が体験型コンテンツを本格開発するきっかけになりました。観光業・地方自治体・中小企業がコト消費型サービスの開発に取り組んだことで、市場全体の底上げにもつながっています。
ここがポイント!
監修者
コト消費は単なる一時的なマーケティングトレンドではなく、消費者の価値観の変化を背景にした構造的な変化といえます。特にモノの機能差が縮小した現代では、「体験価値」や「ブランド体験」が購買意思決定に与える影響が大きくなっています。企業は商品そのものではなく、商品を通じてどのような体験を提供できるかという視点でサービス設計を考えることが重要です。
コト消費が浸透するなかで、Z世代(1997〜2012年生まれ)を中心にさらに進化した消費スタイルが台頭しています。
ここで、押さえておきたいのが「トキ消費」と「イミ消費」の2つの概念です。
トキ消費とは、「その瞬間(トキ)にしか体験できない、再現不可能な体験」に価値を見出す消費行動です。博報堂生活総合研究所が提唱した概念で、コト消費をさらに発展させたものとして位置づけられています。
特徴は「非再現性」「参加性」「一体感」の3点です。一夜限りのライブパフォーマンス、期間限定コラボカフェ、ハロウィンや花火大会などのシーズナルイベントへの参加が典型例で、「今ここにいないと体験できない」という希少性と高揚感が消費動機の核心になっています。SNS上の「祭り感」「みんなで盛り上がる感覚」もトキ消費を強力に後押しします。
イミ消費とは、消費行動そのものに社会的・倫理的な「意味(イミ)」を求める消費スタイルです。「この購入が環境や社会に良い影響を与える」という意義が消費動機になります。
フェアトレード認証商品の購入、売上の一部が被災地支援に充てられる商品の選択、NPOが運営する体験プログラムへの参加などが代表例です。Z世代はSNSを通じてESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:ガバナンス)・気候変動問題への関心が高く、「自分の消費が社会を変える」という意識が強い世代です。この層への訴求では商品・サービスの社会的意義を明確に打ち出すことが不可欠になっています。
モノ消費・コト消費・トキ消費・イミ消費の関係を整理すると、以下のようになります。

現代の消費者はこれらを場面や目的に応じて使い分けています。コト消費・トキ消費・イミ消費は対立概念ではなく、組み合わせて活用できるものと捉えてください。
ここがポイント!
監修者
コト消費・トキ消費・イミ消費はそれぞれ異なる概念ですが、実際の消費行動では複数が同時に成立するケースが増えています。たとえば、限定イベントへの参加、体験の共有、社会的意義への共感が一連の流れとしてつながることも少なくありません。施策設計では、これらを分けて考えるのではなく、どのように掛け合わせるかという視点が重要になります。
概念を理解したうえで、実際の企画にどう落とし込むかを整理します。
① 星野リゾート(観光・宿泊)
星野リゾートは「宿泊」というサービスに、地域の自然・文化・食を活かした「体験プログラム」を組み合わせることで差別化を実現しています。農業収穫体験、伝統工芸ワークショップ、ネイチャーガイドツアーなど、施設ごとに「ここでしかできない体験」を設計しており、価格競争に巻き込まれないブランド戦略の核になっています。
企画のヒント |
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既存の商品・サービスに「体験プログラム」を付加してコト消費化する発想。 |
② スノーピーク(アウトドア用品)
スノーピークはキャンプ用品の販売にとどまらず、全国のキャンプフィールドで「焚き火を囲む豊かな時間」という体験価値を提供しています。顧客を「スノーピーカー」というコミュニティとして育てることで、ブランドへの強い帰属意識とリピート消費を生み出しています。モノの販売がコミュニティ体験の入口になっているモデルです。
企画のヒント |
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商品購入者を「コミュニティのメンバー」として育てる視点。 |
③ チームラボ(デジタルアート)
チームラボは「見る」美術館から「体験する・参加する」デジタルアート空間へと転換し、世界各地で集客に成功しています。作品との相互作用という体験がSNSで自発的に拡散され、広告費をかけずに集客できる構造を作っている点が特徴です。
企画のヒント |
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体験を「SNS投稿したくなる設計」にすることで、参加者が集客の担い手になります。 |
④ 新潟大学 NICEプログラム(教育・学び)
新潟大学のNICEプログラムは、制度説明中心のポスターから履修後の成長や変化を想像させるコミュニケーション設計へと転換し、高校生・受験生がプログラムに興味を持つきっかけづくりに取り組んでいます。履修生の声や学修成果、学生自身が発信するページを前面に打ち出すことで、オープンキャンパスなどの接点で「この学びを通じて自分はどう変われるか」をイメージしてもらえる設計にシフト。制度を説明するのではなく、体験としての学びを見せることが訴求の核になっています。
企画のヒント |
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スペックの説明から「参加後の自分のイメージ」へ訴求軸をずらすだけで、コト消費的な設計に転換できます。 |
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詳しい新潟大学の施策紹介はこちら |
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① 「ここでしかできない」体験を軸に設計する
コト消費の企画でまず問うべきは「なぜ自社がこの体験を提供するのか」という必然性です。自社の強み・地域性・商品背景など固有のリソースを活用し、他社が模倣しにくい体験の核を設計することが差別化と継続的な集客の基盤になります。たとえば食品メーカーなら「工場見学+原材料収穫体験+料理ワークショップ」の組み合わせで、商品への愛着と理解を深める体験設計が可能です。
② SNS拡散を前提にした体験設計
体験のどの場面でどんな投稿が生まれるかを逆算して設計することが重要です。「映えるフォトスポットを作る」だけでなく、体験の物語性・感動の瞬間・参加者同士の一体感がSNS投稿の動機になります。具体的には以下の4点を意識してください。
③ 一度の体験をコミュニティへとつなげる
体験を「点」で終わらせず、参加者同士・参加者とブランドの継続的なつながりを設計することが、LTV向上のカギです。
施策 | 目的 | 具体例 |
|---|---|---|
SNSコミュニティ | 参加者同士のつながり維持 | 公式グループ・Discord |
ファン向け限定イベント | リピートと帰属感の醸成 | 年1回の感謝イベント |
会員・サブスク化 | 継続消費の仕組み化 | 月額体験プラン・優先参加権 |
UGC活用 | 参加者の発信をマーケに転用 | 投稿リポスト・特集コンテンツ化 |
コト消費の施策では、参加者の体験がSNS上で共有されることも多く、UGC(ユーザー生成コンテンツ)の活用が重要になるケースもあります。特に「体験型施策」では、参加者のリアルな声や投稿が新たな顧客を呼び込むきっかけになります。
UGCの具体的な活用方法や事例については、以下の記事で詳しく解説しています。

④ 社会的意義を体験に組み込む(イミ消費との融合)
特にZ世代・ミレニアル世代に訴求するなら、体験に「社会貢献」「環境配慮」「文化保全」の要素を組み込むことを検討してください。参加することが同時に社会的意義につながる設計は、共感を起点とした強い参加動機を生みます。売上の一部を地域文化保護に充てる、体験の一部として環境保全活動を組み込む、地元の生産者・職人と連携した体験を設計するなどが具体的なアプローチです。
コト消費・トキ消費・イミ消費は、それぞれ異なる消費動機に訴えかけるものです。施策を設計する際は「どの消費タイプに訴求するのか」を起点に、KPIまで一貫して設計することが重要です。
施策タイプ | 主な目的 | 主なKPI |
|---|---|---|
コト消費型(継続施策) | LTV向上・リピート促進 | リピート率・LTV・NPS(顧客ロイヤルティを測る指標)・口コミ数 |
トキ消費型(話題喚起) | 新規獲得・認知拡大 | SNS投稿数・リーチ・新規参加者数 |
イミ消費型(共感訴求) | ブランド形成・Z世代獲得 | 共感コメント率・メディア掲載・ブランド認知 |
コト消費は「LTVを高める継続施策」、トキ消費は「話題を作る点の施策」として使い分けると整理しやすいです。たとえば、平常時はコト消費型の体験サービスを継続提供しながら、季節や記念日にトキ消費型の限定イベントを打つといった組み合わせが実務では有効です。
消費者が「何に価値を感じるか」を深く理解したうえで体験を設計し、コト消費・トキ消費・イミ消費を横断した企画を実践することが、これからのマーケティングにおける重要な問いといえるでしょう。
ここがポイント!
監修者
コト消費型の企画は「体験の内容」だけでなく、「体験後の関係性」まで設計することが重要です。参加者同士のコミュニティ形成やSNSでの共有を促す仕組みを作ることで、体験は単発のイベントではなく継続的なブランド接点へと発展します。LTVの観点からも、体験をきっかけに顧客との長期的な関係を築く設計が求められます。
本記事では、コト消費の定義から背景、さらにトキ消費・イミ消費といった最新の潮流までを解説しました。モノが溢れる現代において、消費者が求めているのは「モノ」そのものではなく、それを通じてどんな体験や変化が得られるかという価値です。しかし、いざ体験を設計しようとしても、「ターゲットが本当に求めている体験は何か?」という深いインサイトの把握は容易ではありません。
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